集中講義   


東京大学大学院数理科学研究科


1997年度 集中講義講師一覧

諏訪紀幸 東京電機大 6月9日-13日
池田保  京大    11月10日-14日 
玉川安騎男  京大数理研 12月1日-5日 
坪井明人 筑波大     6月16日-20日
森重文  京大数理研   10月13日-17日

小野薫 お茶の水女子大 火曜日3限
上正明 京大 12月8日-13日
深谷賢治 京大 1月19日-23日
上田哲生 京大  7月7日-11日

岸本晶孝 北大 5月19日-23日
松木敏彦 京大 6月23日-27日
新井仁之 東北大 10月20日-24日
柴田良弘 筑波大 12月15日-19日

重定南奈子 奈良女子大 11月17日-28日
山口智彦 工技院 6月30日-7月4日
小林メイ  IBM東京基礎研究所 5月26日-5月30日

基礎科

浦川肇 東北大  11月10日-14日
中尾充宏 九州大 10月27日-31日


数理科学特別講義 I   5月19日-23日

14:40--16:40
数理科学研究科棟(駒場)123号室

    C*-algebraの自己同型のRohlin条件について

       岸本 晶孝 (北海道大学)

作用素環(特にC*環)の自己同型写像について。C*環は無限自由度の数理物理モデルを記述 するに相応しい数学的対称と考えられ、その自己同型写像はそのモデルの時間発展や 対称性を 表わすと考えられる。講義では、C*環の自己同型写像(群)を取り上げる。先づ、C*環と自己同型写像について標準的結果を必要に応じて概説する。 (参考書:G.K,Pedersen:C*-algeboras and their automorphism groups, Academic Press,1979) ついで、C*環の表現(とくに既約表現)との関係、Rohlinの性質、接合積との関係など を通じて、自己同型写像(群)を考察する。




数理科学特別講義V  6月9日 - 6月13日

14:40--16:40
数理科学研究科棟(駒場)123号室

 crystalline cohomology あるいは de Rham-Witt complex

     
諏訪 紀幸 (東京電機大)

正標数の体の上に定義されている代数多様体には様々な興味深い独特の現 象が現われる。正標数の代数多様体を記述する道具として crystalline cohomology あるいは de Rham-Witt complex は特に重要である。crystalline cohomology、de R ham-Witt complex の概要が理解できるよう題材を選んで講義を進める。特に、Dieud onne加群あるいは Raynaud加群についての代数的な理論を詳しく説明して、それが代 数多様体の記述にどのように役立つかを、多くの例を示しながら解説する。  代数幾何学の基本的な知識(例えば、Hartshorne の Algebraic Geometry の第2章 、第3章程度)を前提とする。  次のように講義を進める。

導入

本論

(1) 形式群のCartier加群。Dieudonne代数の定義と基本的な性質。Dieudonne代数の 上の加群。

(2) Raynaud代数の定義と基本的な性質。Raynaud代数の上の加群。

(3) de Rham-Witt coplexの定義と基本的な性質。de Rham-Witt coplexのcohomology 群のRaynaud加群としての性質。slope spectral sequenceの退化性。

(4) Ekedahl dualityとPoincare duality。

(5) de Rham-Witt coplexのcohomology群の例。




数理科学特別講義III  6月16日 - 20日

14:40--16:40
数理科学研究科棟(駒場)123号室

  Large モデル理論概説  - 独立概念を通しての入門 -

      坪井 明人  (筑波大学)

古典的なモデル理論から最近の発展までを講義する。 独立概念(1次独立,代数的独立など)は数学において重要な 概念である。我々は独立概念とは,ある種の公理を満たす3項関係 (集合A,B,Cに対して,「AとBがC上独立」という3項関係) だと考える。 Shelah は安定という概念を定義して,安定な構造で この公理を満たす独立概念の存在を示している。 しかし最近,単純な構造(安定性より弱い条件を満たす構造)に対しても 公理の大部分を満たす3項関係の存在が Kim, Pillay らによって示された。 この講義では,上記の独立概念という言葉をキーワードとして モデル理論の展開をする。 講義の主な項目は
などである。 なお,学部2年生程度の素朴集合論の基礎知識は仮定する。 初歩的な事柄から説明をするので,基礎論の知識は特に仮定しない。




数理科学特別講義XIII  6月23日 - 27日

14:40--16:40
数理科学研究科棟(駒場)123号室

リー群の軌道分解

松木敏彦

対称空間 M = G/L 上には左からリー群 G が作用し、G の等質空間になっている 。G の部分群 H について M 上の H-軌道がどのようになっているかを調べよう。特に G/ H も対称空間になるような H を考える。H = L の場合、次のような例がよく知られてい る。  

例1. M : 2次元単位球面, G = SO(3), H = L = {g \in G | g(0,0,1) = (0,0,1)} (H, L は SO(2) と同型)のとき、M 上の H-軌道は平面 z = k による切り口の円周 (-1 < k < 1) または1点 (k = 1, -1) である。

例2. M = { n 次正定値実対称行列 } に一般線形群 G = GL(n, R) が自然に作用し 、M = G/L (H = L = O(n)) と書ける。実対称行列は直交行列によって対角化できるので 、M 上の H-軌道の代表元として正定値対角行列を取ることができる。  

本講義では、一般に H と L が異なっても軌道分解の記述ができることを示したい。次 の順で話す予定である。  1. いくつかの例  2. 主定理(G がコンパクトのとき)  3. ルート系、分類問題  予備知識として必要なものは、ほとんど線形代数学のみであるが、多様体に関する基礎 的知識がある方が望ましい。






  講義題目:  「化学反応のダイナミックス」

  講師:    山口 智彦氏(物質工学工業技術研究所 化学システム部)

  開講期間:  平成9年6月30日(月)〜7月4日(金)

  時 間:   2時40分〜4時40分

  講義場所:  駒場キャンパス 数理科学研究科棟1階123講義室 

本講義では、BZ反応を中心に、化学反応のダイナミックス(リズムと    パターン形成)に関する講義を行う。テキストではないが、『非平衡の 科学III』三池・森・山口(講談社サイエンティフィク)に沿って概要を 説明する。

・化学振動反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の紹介

・同反応の数理モデル

オレゴネータ

Rovinsky-Zhabotniskyモデル

Gyorgyi-Fieldモデル

・同反応の時間構造

分岐構造

カオスとその制御

・同反応の空間構造

反応拡散系

ラセン波の形成

3次元構造

・画像解析とパターンの競争

2次元の速度場を求める

曲率効果と境界の形成

・その他




数理科学特別講義XV  7月7日(月)〜7月11日(金)

14:40--16:40 数理科学研究科棟(駒場) 123号室

複素関数論と多変数の力学系   上田 哲生 氏 (京都大学)

多変数の複素力学系、特に複素射影空間における正則写像によって定まる複素 力学系の理論を中心に解説する。これは一変数有理関数の力学系の自然な拡張 であると考えられる。  講義内容としては以下のようなものを予定している。

[(1)]多変数複素解析学の基礎知識、ー多変数、正則関数、疑凸領域、 多重劣調和関数、カレント、小林疑距離など。

[(2)]Fatou集合とJulia集合の定義および基本的な性質、またこれの集合を 具体的に記述できる例、特に、Fatou集合が空となる例。

[(3)]Fatou成分とその上の極限写像。

[(4)]不動点および周期点の分布、指数公式。



数理科学特別講義 XIV

10 月 20 日 - 10 月 24 日 14:40 -- 16:40
数理科学研究科棟(駒場) 123号室

実解析学とその応用 -- さまざまな空間上の実解析 --
       新井仁之 (東北大)

本講義では,実解析学の基礎からはじめ,最近の話題のいくつかを紹介する.近年, 偏微分方程式論および多変数複素解析学など,さまざまなところで実解析的方法が使 われているが,ここでは,特に退化楕円型偏微分方程式と多変数複素解析への応用を 目標にして,いわゆる幾何的実解析を詳しく講義する.主な講義内容としては,次の ものを予定している.
0.等質型空間 (多様体,ベクトル場,希薄集合)
1.Calderon-Zygmund 理論と T1 定理
2.Hardy 空間と BMO, Carleson 測度
3.擬微分作用素,フーリエ積分作用素の実解析
4.線形および非線型退化楕円型偏微分方程式,多変数複素解析への応用

予備知識:Lebesgue 積分.




「応用数理特別講義I」

11月10日(月)〜11月14日(金)

1.講義の表題: グラフ理論におけるスペクトル幾何

       浦川肇 (東北大)


2.講義内容: (1)グラフ理論におけるラプラス作用素について,その定義,基本的性質を, 簡単に,「ラプラス作用素とネットワーク」(裳華房,1996)に基づいて 紹介した後, (2)無限グラフの体積増大度,等周定数,スペクトルの下限などの様々な 結果と証明のアイデアについて触れる. (3)無限グラフの熱核,グリーン核の話,マルチン境界との関連, (4)グラフの調和関数,調和形式,ベッチ数, (5)グラフの調和写像(harmonic morphism)の概念と熱核,グリーン核の 評価への応用について, などを話す予定です.




1. 講義の表題:偏微分方程式の解に対する精度保証付き数値計算法.


       中尾充宏 (九州大)

講義内容の概要:
偏微分方程式、特に2階非線形楕円型方程式のディリクレ問題の解に対する精度保証付き 数値計算法を中心に講義する。 精度保証付き数値計算法とは、問題に対する解の存在(一意性)と誤差限界を数学的に保 証するような計算機による数値計算法であり、数値的検証法とも呼ばれる。 講義では、精度保証付き数値計算法のとは何か、から始めて、連立方程式の解などの有限 次元問題に対する精度保証法をふまえた上で、主として、非線形楕円型偏微分方程式の解 に対する精度保証付き数値計算法について述べる。なお、ここに述べる方法は常微分方程 式の境界値問題(2点境界値問題、周期境界値問題)に対してもそのまま適用できるもの である。
具体的な講義項目は以下の通りである。

1. Introduction 精度保証付き数値計算法(数値的検証法)の意義とその必要性について述べる。また、区 間演算の基礎とその効率的実現法にもふれる。

2. 連立線形/非線形方程式の解に対する精度保証 連立1次方程式および非線形連立方程式の解に対する精度保証の原理と、その実現方法の 概要を述べる。

3. 楕円型境界値問題の解に対する精度保証 先ず、非線形楕円型境界値問題のソボレフ空間上での不動点定式化を行い、解を計算機に よって捉えるための、不動点定理にもとづく基本原理を解説する。

次に、ポアソン方程式の有限要素近似解とそのa priori誤差の構成的(数値的)評価が精 度保証に果たす役割とその実際を述べ、基本的検証条件の構成と逐次反復法による検証( 精度保証)アルゴリズムを与える。
さらに、適用領域を一般化するためのニュートン的反復法を導入し、それにもとづく検証 法を述べ、具体的な計算手順と数値例を示す。また、解の局所一意性検証の手順にもふれ る。
最後に、方法の拡張と改良に関して、
・高次有限要素を用いたa posteriori誤差評価の併用による高精度化
・非凸多角形領域上の問題(正則性の低下した問題)への対応法
などについても言及したい。





11月17日(月)〜11月21日(金)

1.講義の表題: 侵入の数理生態学

       重定南奈子 (奈良女子大学理学部)


2.講義内容: 人間を取り巻く自然環境では、 種々の生物が、侵入、生存、伝播、絶滅、などを 繰り返しながらダイナミックに変化している。本講義では、まず、生態系を様々な種 を> 構成要素とするシステムとして捉え、種間相互作用のネットワークが,系の安定 性や 多種共存とどのように関係しているかを、幾つかの数理モデルを用いて考察す る。ついで、地球環境問題のひとつである生物の大域的分布の時空間的変動パターン について,拡散増殖方程式を用いたモデル化の方法やその応用について解説する.と くに, 移動がランダム拡散によるだけでなく,長距離飛行によって飛び火的に行わ れる場合を記述する階層的拡散モデルを紹介し、実際の空間的伝播の定量的な説明を 行なう.また,不均質な環境の中への生物の侵入を取り上げ,そこでの空間的拡大が 起こる条件を求めると同時に,環境問題への応用について考察する.さらに,2種以 上の種が互いに相互作用しながら分布域を広げている状況に注目する。特に,互いに 競争関係にある種の間で分布域の境界線がどのように引かれるのか,強者が弱者の領 域に侵入していくときの侵入速度はいくらかと言った点に焦点を当たる.最後に,病 気の流行と伝播のメカニズムについても言及する予定である.

<参考文献>

重定南奈子著 「侵入と伝播の数理生態学」東大出版会 1992
重定南奈子著 「数理生態学」岩波応用数学講座 8, 1993
Shigesada, N and Kawasaki, K. (1997). Biological Invasions: theory and practice. Oxford Series in Ecology and Evolution. Oxford University Press. 205 pp. 1997.



12月1日(月)〜12月5日(金)

講義の表題:代数曲線の被覆と変形・退化

       玉川安騎男 (京都大学数理解析研究所)

スキームの基本群は、そのスキームの有限エタール被覆全体を 統制する profinite (=コンパクト全不連結)位相群である。 複素数体(あるいはより一般に標数0の代数閉体)上の代数多様体の 場合、基本群は、対応する複素解析空間の通常の位相幾何的な 基本群の profinite 完備化と同型であり、この事実により、 生成元と関係式による基本群の表示を 位相幾何学によって求めることができる。一方、正標数の 代数多様体の場合、基本群の位相群としての構造を 決定・記述することは、(代数閉体上の)曲線の場合にすら 一般には全く未解決である。この講義では、この問題への アプローチを軸にして、変形や退化という代数幾何学の 基本的な手法がどのように曲線の被覆の研究に用いられるかを 解説する。初日は、``SGA 1''における、基本群 の specialization の理論の復習を中心に講義する予定である。 なお、予備知識として代数幾何の初歩を仮定する。




1月19日(月)〜1月23日(金)

講義の表題:正則A無限大関手とミラー対称性

       深谷賢治 (京都大学理学部)


講義内容: タイプIIAの弦理論においては,複素解析的な対象(特に複素部分多様体)が,現れ るBrainであり,タイプIIBの弦理論においては,シンプレクティック幾何学における 対象(特にラグランジアン部分多様体)が現れるBrainであるといわれる. この二つが双対で移りあうのが,ミラー対称性の一つの現われである. 前者・すなわち複素部分多様体を,その上のゲージ場のなどを含んで,より精密に 考えると,多様体の上の連接層が現れる.すなわち,タイプIIAの弦理論のBrainは連 接層である. これに対する,タイプIIBの場合の対応物を構成し,二つが等価であるということの 数学的な定式化を与えることが講義の目的である. 言い換えると,層の理論のシンプレクティック幾何学における対応物を定式化する ことになる.これは,中島啓による母空間の概念とかかわり,複素部分多様体のモ ジュライ(Hilbert Scheme)をラグランジアン部分多様体のモジュライで置き換える ことにより,シンプレクティック多様体にたいして,Hilbert Schemeと同様の構成を 行うことに当たる. さらに,Hilbert Schemeにもとづく母空間で大切であったCorrespondenceのシンプ レクテッィク版も考察する.(これが正則A無限大圏を与えることに当たるというの が,筆者の主張である.) これは,シンプレクティック多様体の中のラグランジアン部分多様体に対する,フ レアーホモロジーの理論,とくに,フレアーホモロジーが定義されるための障害の理 論(コンセビッチ,オー,太田,小野の各氏と共同で現在論文執筆中)・それを用い て構成されるべきである,ラグランジアン(+直線束)のモジュライの理論,そし て,正則A無限カテゴリーとそこからの関手などが用いられる. さらにはA無限圏の変形の理論を建設することにより,有理曲線の数と湯川結合を関 係づけというミラー対称性の結論に対する,一つの説明を行うことも目的とする.



数理科学特別講義XII  12月8日(月)〜12月12日(金)

4次元多様体の切り貼りとSeiberg-Witten理論

       上 正明 (京都大学総合人間学部)
講義内容: 4次元多様体の切り貼り,特に2次元トーラスに沿った 手術による構成について初等的に説明し,Seiberg-Witten不変量の 手術公式を紹介する.さらにそれらの応用として, 任意の自明でない有限群に対する4次元多様体上のエキゾチック群作用の 構成についてふれる.




非圧縮性粘性流体の運動を記述する Navier-Stokes 方程式について

講義の表題:代数曲線の被覆と変形・退化

       柴田 良弘 早稲田大学理工学部

非圧縮性の粘性流体の運動を記述する Navier-Stokes 方程式についての数学的取り 扱いの基本的なことについて講義をする。 方程式の導出について、出来るだけ簡単に説明する。
3次元での、強解の時間大域的な存在について、加藤理論にそくして、説明をする。 コーシー問題については、まづ線形化した問題である、Stokes 方程式の解の表現を 求め、解の性質を導出し、それを用いてもとの、非線形方程式をとく。さらに、境界 がある場合についても解説をする。この場合、Helmhortz 分解が重要になるが、これ は Laplacian に対する解の存在定理から導かれる。また、Stokes 作用素が analyti c semigroup を生成することなどを、 解説する。時間の都合上証明の詳細にはふれられないので、多くのことについては、 論文のガイドと問題の解説になると思う。
弱解の構成を Galerkin 法を用いて行う。弱解の一意性と滑らかさはいまだに 解けていない重要な問題である。それに関連して、解の一意性性が成立するための十 分条件に関する、Serrin's class の話をしたいと思う。
講義を聴くにあったては、関数解析や、Fourier 変換などの基礎的なこと、できれば 、楕円型方程式のことなどが予備知識としてあればよい。


1996年度集中講義のアブストラクト